新機軸

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

感想をまとめるのがしんどいので、覚書風に(=乱雑に)。

とにもかくにも、人物造形の爆発力。細かいことは選評で大森望の言うとおり。百人が百人認めるキャラ立ちぶりで、中でも探偵役の白鳥圭輔、近年まれに見る斬新さ。探偵のキャラづけとして「カッコイイ」もしくは裏返して「地味」なんてのは星の数だが、「キモイ」というのは新機軸石動戯作とかその気がなくもないけど、もっとアグレッシブにキモイ。しかしこれがいいのですね。初期の御手洗モノみたいに、振り回される心地よさを久しぶりに思いだした。破壊的な魅力があります。
書きっぷりからすると、人気次第でたぶんシリーズ化する気なんでしょう。ちょこまかと伏線が張ってある。こういうのは大概寒いもんだけど、本作に限ってはあまり気にならない。いや、シリーズで読みたいですよ。

作者は40歳とのことで、少し驚いた。どちらかというとゲームとかラノベのテキストに親しんだ人の文章という感じがしたので。体言止めが多いし。まあ今時40過ぎのラノベファンなんて普通か?(ラノベ読みと決めつけた)。全体にはリズムがあって気持ちよく読める(と思う)。けして名文ではないけど、そこここの表現に機知というか、とんがった才気を感じた。好きな文章です。
ただ、謎解き面に注文をつけたくなるのもわかる。プロットも確かに地味だし。むー。
応募時のタイトルは「チーム・バチスタの崩壊」だったそうで。「〜栄光」にしたのは英断だったと思う。華のある小説には、華のあるタイトルがふさわしい。

探偵山浦、香川の出。

月夜の晩に火事がいて

月夜の晩に火事がいて

横溝正史の岡山物から、絵草子的な煽りを抜いた感じ。+香川弁ギャグ。
東京で私立探偵をいとなむ山浦歩、通称「ふーちゃん」。ある日故郷の幼馴染よりかかってきた電話は”わらべ唄の見立て殺人が起こる気がする”というものだった。「とにかく早よ来い」。半信半疑で香川へ向かうも、果たして殺人は起こり……。
「木兵衛さん 金玉落として どろもぶれ」
尾篭な単語が混じっているが、物語の主旋律となるわらべ唄の一節である。被害者は唄の通り睾丸を切除されて殺される。受け狙いかとも思うが、事件の根幹には土着的な因縁が絡んでいることから考えると、案外テーマ上の必然かもしれない。横溝的血の因縁譚とは、畢竟、金玉の問題であると。
終盤近く、ミステリ史上屈指の(?)もどかしい尋問シーンがあり、必読。すげえイライラするよ!

大きくていい

館島 (ミステリ・フロンティア)

館島 (ミステリ・フロンティア)

装丁でとりあえず一ポイント先取。
(まあその辺の「狙った」感が気になる向きもあるでしょうが)多分に天然の味わいある作風です。この作家を「だめ、大嫌い!」という人はそうはいないでしょう。賛否分かれるギャグも含めて「しょうがないねえ、あのひとは」と苦笑交じりに愛されるタイプ。
ラストで見えてくる、奇妙な館の真意とそれがもたらすビジョンが大きくていいと思いました。綾辻的な館がひたすら内に篭もるのに対し、こちらは外を向いていますね(←ややバレ)。

牽強付会の気もする。

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

スフィンクス”という小道具に作者のカー愛を見た気がする。

ピリピリ

2006年なんですね。SF感が漂います。

雷鳴の中でも (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-4)

雷鳴の中でも (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-4)

カーにつまらないものなし、の信条を揺るがされそうな一品。
舞台はかつてヒトラーも滞在した山荘。そこで十年の時を隔てて繰り返す、不審な墜落事故――いわゆる「謎の墜落物」です。D・グリーンの伝記では割に好意的な評価だけど……どうでしょう? カー好むところの「緊張感漂うヒステリックな雰囲気」が、登場人物だけで完結してる感じ。始終神経質に叫び合うけど、そんなにピリつく気分がどうもピンとこない。カルシウム不足かね。
筋立ても……俺、何か伏線読み飛ばしたかなあ? 驚き所が解りませんでしたよ。
せめてナチスが筋に絡んでくればよかったのですが(そしてヒトラーが犯人!なら神だった)。

というわけで、ノレませんでした。いつかまたカー・レベルが上がったら再読しようと思います。

申し分……

鳥飼否宇「逆説探偵〜13人の申し分なき重罪人」(探・連短・双)
逆説探偵―13人の申し分なき重罪人
「痙攣的」は凄かった。たぶん、誰もがそう感じてる(皆が「痙攣的」を読了済みと仮定して――)。13の短編が一つの事件として収斂する――かつて東京創元社にて全盛だった――モノとしては非常にまとまってる。でもそれは「おとなしい」とか「出来はいいけど……」とかいう評価になってしまうわけで。否定してるわけではなくて、好きは好きです。
ここまで続けてくれれば「次はどのチェスタトンでくるだろう?」とタイトルを想像する楽しみもあるし。「心象なる傍題」「偽証クラブ」「飛翔クラブ」……イマいち。

男女/ロスマク

黒雨様(id:blackrain)よりバトンが渡されていた。まだバトンてあったですか。
こういうものは回してくる君たちに気配りを感じるんだ。いいjobだ。んで?
「男性は『女性』になりきって考えてください。
女性は『男性』になりきって考えてください。
今、この時点で自分が異性に生まれ変わったものとして 以下の質問に答えてください」
ややこしいわねえ・・・。
1.朝起きて最初にすることは?
二度寝。低血圧をますますこじらせているはずです。
2.あなたの職業(学校)はなんですか?
就職は難しい気がします。
3.どんな相手と付き合ってみたいですか?
多少なりお酒は飲めて欲しいかしら。
4.自分の自慢できるところはどこですか? 具体的に。
クールなバディ。主張しすぎないスリムなフォルムです。
5.どんな格好をしてみたいですか?
コンサバ系
6.どこに行ってみたいですか? 
ラルクのコンサート
7.もし本当に自分が異性に生まれ変わったとしたら、その異性となった自分と付き合ってみたいですか?
却下。
8.このまま生まれ変わったままでいたいですか?
どうせならちょいモテオヤジとかになりたいです。
そっちの方が手間もかからないと思うんですが。
9.このバトンを5人の友達に回してください
察してください。


以上です。

ロス・マクドナルド「ドルの向こう側」(私探・長・早)
ドルの向こう側 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-10)
重厚なハードボイルド本格。こういう、ため息をついてうなだれるような読後感は、やはりライトで切ないノベルには中々ないもんですね。人物たちの「関係」性が四転五転してゆく展開は鮮やかのひとこと。
「あなたは人間の間のつながりにしか興味がない。例えば―」(中略)「―配管工のように」
ある種ロスマクのエッセンスであり、法月綸太郎の作風を考える上でもキーとなる部分だと思います――というのを昔どこかで読んだような読まないような。