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三浦しをん「格闘する者に○」(文・長・新〔文庫版〕)
あらすじ:就活はたいへん。やくざの跡目だとなおたいへん。恋人はフェチ老人、たいへん。
というわけで三浦しをんのミステリー適正を診断すると、
第一に冒頭の童話ないし寓話。これ自体が切味鋭利・完成度の高いショートショートなわけだが、中盤その「正体」が明かされたときには膝を打った。
本書は「就活経験者∩出版業界狙い」だった人にとっては「そうそう、あるある」度数の高い小説として評価をすでに得ているが*1、そんな読者なら尚のこと、びっくりは強いだろう。そうじゃないと私一人ばかみたい。とまれサプライズ構築能力は有とみた。
また本書で採用された擬古典調の文体も、ミステリーと相性が良い。しろうとがやると抜群に恥ずかしいものが一丁あがるけども、先生のは地に足が付いた擬古典、これはぜひ「探偵小説」を書かせてみたい、と私は思いました。
「虚無」が好きで、有栖川先生、高村薫先生の著作は全部いってるらしいから教養も○、たぶん。腐女子が萌え上がるようなヤツを自由気ままに書かせたら逆にもうすげえ面白いことになるんじゃないかと。逆って何のだ。
*1:とゆうか、素直によい小説です
私立探偵癒し系
ビル・プロンジーニ「名無しのオプ 事件ファイル」(新潮・ハードボイルド・短)
あらすじ:名無しのオプが名推理を四回やる。
私立探偵のくせにパルプマガジンの収集が趣味、という臆面もない作者の自己投影がほほえましい、オプシリーズ短編集。ハードボイルドと謳ってはいるが、文体・キャラともにまったく冴えず、むしろちょっとしたロジック、トリックにキレあり。二編目の古本屋万引き事件がその意味ではベスト。
この話オプが嬉々として店員に化けて潜入操作、とハードボイルドとしてはグダグダ感を極めながらもラストは爆発・炎上のカーバトルで、アメ公のサービスマンぷりを見た。
総体にゆるい職人芸、といった趣の短編集でしょうか。あんまりほめるとこもないんだけど、なんかほんわりとして憎めない。癒し系?
大好きなドリルヘア
桜庭一樹「GOSICK Ⅲ‐ゴシック・青い薔薇の下で‐」(探・長・富士見)
あらすじ:デパートでは人が消えたりマネキンが動いたりします。
ドリル、いやブロワ警部萌え。ヴィクトリカ? そんなのもいましたね。
でも実際、ブロワのヘアの秘密が明かされるくだりには膝を叩いたことです。ナンセンスっぽいギャグにみせかけて、シリーズ展開上の重要な伏線になってくる(多分)あたり、みごとな手並み。
ベストフレーズ:「……で、その過程で、ブロワ警部の髪が尖った、と」
しかしこの人、巻末あとがきはどれも面白くないと思うんですがどうでしょうか。文章が雑は雑だから、エッセイめいたものになるとアラが目立ってくるのかと思うんですがどうでしょうか。(←適当な考察)
ぬ
浅暮三文「傑作短編集 実験小説 ぬ」(? 短 光文社)
あらすじ:街で見かける、帽子の男。ふと興味をもった語り手は彼の行状を観察しはじめるが……(「帽子の男」)
サブタイトルの「傑作短編集」が、ネタでもハッタリでもない正銘の傑作短編集。ぱらぱら頁をめくってゆくと♀←√¶orz(イメージ)といった按配で、何やら絵とも記号ともつかないものが散見されるが、これは話の筋を追ってゆけばきちんと理解される仕組み。どうせ絵を入れるなら使うなら、せめてこれくらいはやって欲しい――少なくとも出来るんだという見本です。
冒頭の「帽子の男」なんて読んだらもう二度と同じように街を歩けない、怖い! 帯では筒井康隆を引き合いに出してたが、むしろ初期の清水義範をほうふつとさせる……かな? ジャンル分けは困難、小説の版図を地味に広げるまさに実験小説でした。
テンポよし
シムノン「世界の名探偵コレクション10 メグレ警視」(探・短・集)
あらすじ:犯罪より犯人に興味のあるメグレは、今日も彼らを追い詰め追いかけ時には逃がしたりもするのだった。
いやーテンポがいいわ。筋運びのなんとも絶妙であること。書くべきところは書き、書かなくていいところは書かない。省く。まとめる。メリハリがある。トントントンとスキップするようなテンポのよさで、気がつくと終いまで一気。
とはいえそこはフランス人のこと*1。深遠なる心理描写はお家芸ですから、テンポに油断していると話の筋を掴み損ねることもあります。お前の読解力が低いんだと言われればそれまでですが。
小説の軽快さという意味では、日本で言うと池波正太郎なんて近いだろうか。読書量が少ないもんで、この言い草は我ながら怪しい。
文章がみだれ気味なのは東京の暑さが悪いんです。