贅沢

一日に二度お風呂を入れた。
出歩くとお金が減るからね。


須川邦彦「無人島に生きる十六人」
明治三十一年のこと。品行方正、謹厳実直で海外にも知られた帆船龍睡丸は、太平洋沖で座礁する。船長以下十六名はからくも小船で脱出したが、流れ着いたのはカメがいるばかり、木も生えない珊瑚礁の小島だった――。
椎名誠が「十六おじさん漂流記」と絶賛する、ノンフィクション冒険譚。けれんはひかえ目だが、その分素朴で抑制のきいたテンポが、じわじわと読み手を高揚させる。船から何を持ち出すか? 水は? 食料は? 病気だ! 燃料がない……。次から次への困難苦難、十六人は一丸となって乗りこえてゆく。あいた時間には勉強もする。なんとたくましい日本船員のすがたであろうか(←文体ちょっとコピー)。漂流譚には欠かすことのできない食事描写もばっちり(カメ肉おいしそう)。――なぜか人物がキース・ヘリングみたいな挿絵も味があり、正味250ページで抜群の読みごたえでした。
小笠原老人は、岩に流れついたおわんと、ほうきのえの竹を、大事に持っていた。
「老人、つえの用意か」
だれかがいった。すると小笠原は、
「はっはっ、つえじゃないよ。おわんだってそうだ。こんなものとみんな思うだろう。だが、つまらないと思うものが、いざとなると、ほんとに役に立つのだ。それが、世の中だ。わかい者にゃ、わからないよ。潮水の修行が、まだ足りないよ」
さて何に使うのか?無人島に生きる十六人 (新潮文庫)