都筑、曰く

エドワード・D・ホック「サム・ホーソーンの事件簿Ⅲ」(探・連・創)
あらすじ:一見ありえない事件でも、サムにかかればすぐ解決なのですよ?
好評シリーズ……なのだろう。都筑道夫に言われるまでもなく小説的味わいなどはかけらもないが、気付くとつい手にとってしまう。依存性の高い短編集。Dr.ホーソーンが不可能犯罪に出会っては解き明かすというパターンは、都筑道夫に言われるまでもなくマンネリの極みだが、ここちよい。不可能犯罪ものが12編続いてちょっと食傷してくるころに「ナイルの猫」――都筑道夫言うところのモダーン・ディテクティブストーリーの手本のような作品――でピリ、と締める構成もいいんじゃないでしょうか。

以下不満。
本シリーズは全作品を通じて、老ホーソーン医師が、禁酒法時代の自分の活躍を聞き手(正体不明:作中では「きみ」と語られるのみである)に酒を勧めながら語ってきかせるという構成をとっている。もったいないなと思うのが、老ホーソーンは昔も今も、とても紳士な点。主に語り口の問題なのだが、Ⅰ〜Ⅲを通じて眉唾チックな不可能犯罪が披瀝される割にはツッコむ隙がない。まじめだからだ。アル中の妄想じゃねえの? と疑わせるくらい、いっそベロベロの口調に「訳」してた方が、絶対味わいは増したと思うのでした。
サム・ホーソーンの事件簿3 (創元推理文庫)

文がみだれ気味なのはお酒が悪いんです。

テンション→↑→→→→

桜庭一樹GOSICK Ⅱ‐ゴシック・その罪は名もなき‐」(探・長・富士見)
あらすじ:僻村にて、時を隔てて怪事件、起こる。ヴィクトリカにも因縁があるっぽい。
ハイライトは早い段階でおとずれます。p.39 探偵役のヴィクトリカが、おみやげの帽子を本の隙間から転がってきて奪いとるシーン、ここです。あとはあんまテンション上がりません(俺の)。
作者の”勢いで書ける”能力が「書き流し」につながってしまったか? 前作は本格推理からバトロワまで大ネタ小ネタを力ワザで繋ぎ合わせ、ごちゃごちゃーとした魅力がにおいたってたのですが、今回はまあふつうの本格。シリーズ上の伏線張るのに忙しかったのかしらん。もっとジャンルオーバーして! ハジケて! ほしかったです。
「それではもうゴシック買うのやめますか?」
「いいえ、私はゴシック次のも買います」
GOSICK〈2〉ゴシック・その罪は名もなき (富士見ミステリー文庫)

たのもしい

米澤穂信クドリャフカの順番−「十文字」事件−』(探・長・角)
あらすじ:学園祭で連続窃盗事件発生、文集『氷菓』も刷り過ぎた!
冊数カウントダウン、わらしべ長者ネタ、レギュラー四人がかわるがわる語りを務める構成――などなどあの手この手の趣向を詰め込んだ一作。「学園祭」モノにふさわしい賑々しさ、それでいて散漫ではなく、「期待」をテーマに物語は一点に収斂する。あんまり手際がいいんで逆に物足りなくなるひともいるかも。
”あとの祭り/祭りのあと”的な切なさは、割とひかえめ。元々切なさを目的とする書き手ではないと思うので、それは別に欠点とは感じませんが。むしろ抑制の効きっぷりが近刊の私立探偵小説「犬はどこだ」(探・長・創)への期待をたのもしく膨らませるですよ。
あと本書とは関係なく、「さよなら妖精」って「バイバイ、エンジェル」かしらと不意に思った大量死。
クドリャフカの順番―「十文字」事件
氷菓 (角川文庫)

いやらしい

蘇部健一「ふつうの学校②―ブラジャー盗難事件の巻―」(探・連・講)
あらすじ:破天荒教師・稲妻快晴がいやらしい笑みを浮かべながら学校のトラブルを解決する!
一人称のジュブナイルというのは、基本的に不可能である。本当に「らしい」と読者に思わせるには子どもの言葉、思考で書かねばならない。しかし完全な子どもの思考・言語を採択すれば、その小説は小説としてもはや成り立たない(清水義範ならやりそうですが)。ジュブナイルは結局、どこで見切りをつけるかというジャンルといえる。このように一つの流れとして成立するまでには、幾多の作家の呻吟苦吟があったことだろう。今も苦闘していることだろう。
蘇部先生は全部無視しました。
主人公の外池(とのいけ)明は小さな「六とん」である。保険調査員が小学五年生に、一人称が「私」から「僕」になったくらいで、文体も物の考えかたも、ギャグのリズムも、まんま「六とん」式。食玩のくだりだって、単なる作者の趣味であろう。ぜんぜん、子どもじゃない。
なので、もともとのファンならにやついて楽しめる作品かと存じます。構成はしっかりしているよ。そうして、作中稲妻先生が何回いやらしい笑みを浮かべるか数えてみよう!
ふつうの学校〈2〉ブラジャー盗難事件の巻 (講談社青い鳥文庫)
六枚のとんかつ (講談社文庫)

EQ薫

北村薫「ニッポン硬貨の謎」(探・長・創)
あらすじ:エラリークイーンが日本で変質者をつかまえた。
系列としては「六の宮の姫君」。過去の論文を小説に溶かしこんだタイプのもの。
昔、ダ・ヴィンチだったか「クイーン私の一冊」みたいな企画があって、北村先生は「シャム双子の謎」を挙げておられた。”この本には訳者も気付かないであろうスゴイ仕掛けが施されているんですよ、けれどそれを十分に語るには原稿用紙四十枚が必要”とフェルマーの定理みたいなことを言っていて、随分焦れた覚えがある。
そのシャム双子論がついに、本書でおひろめとなった。しかも、誰もが彼こそもっともその問題にふさわしいと思い続けていた、かの「五十円玉二十枚の謎」、その北村版解決をひっさげて。
出来を問われれば正直苦笑いかもしれない。シャムはともあれ、五十円の方は……。後期クイーンらしく、あえて言葉遊び(駄洒落)にこだわったのかなとも思ったが、解説読むとそうでもなさそう。でもいいや。
ともかく、本書はクイーンのパスティーシュとして大変素晴らしい。クイーンよりクイーンらしく、井上勇よりぎこちなく、青田勝より感傷的、でも北村薫
文体の至福がここにあると思います。
ニッポン硬貨の謎
競作五十円玉二十枚の謎 (創元推理文庫)
シャム双子の謎 (創元推理文庫 104-11)

本について

●お気に入りのテキストサイト・ブログ
「KICK ASS DUMB ASS」(id:vins
●今読んでる本
高丘親王航海記、夏のエンジン、SFベスト201、満ち足りた人生
●最期に買った本
もやしもん
●好きな作家
藤子(F)不二雄、泡坂妻夫、伏字
●思い入れ五冊
ファーブル昆虫記(たまころがしの生活)
奇面城の秘密
水晶のピラミッド
双頭の悪魔
夜明けの睡魔
●この本は手放せません!
実家に安置してある「ドラえもん」とか「オバQ」は今それなり貴重なんじゃなかろうかと。墓場までもってくとしたら? みたいな意味合いでも「ドラえもん」。特に六巻。実家だけど。
●次のバトン筆者
不在。

細かいことはおいおい書き足されてゆくと伝えられている。